集団的な傷であれ、個人的な記憶であれ、「故郷」とは失って初めてそれがどのようなものであったのかが理解できるものです。時にそれは廃墟となって封鎖された道路であったり、扇風機の音が響く夏の昼下がりの古い家だったりします。「故郷を振り返る」は、『住所不明:福島の現在』と『古い家』という2つの作品を通して故郷を見つめ直そうという試みです。
被写体を3Dデータ化する「ボリュメトリックキャプチャ」と写真測量法を駆使して制作された『住所不明:福島の現在』は、原発事故後、帰ることのできなくなった故郷の風景を映し出します。 私たちは、コミュニティが過去に受けた傷からどのように暮らしを再建していくか、災害後に「故郷への帰属」はどのように再構築を迫られるのかを目撃することでしょう。『古い家』では一人称の視点から、許智彥監督の祖母の身体的記憶に導かれ、家族で過ごしたある夏の午後へと戻ります。物理的なシミュレーションと時間のひだを通して、喪失感が目の前の音と映像に浸透していきます。
故郷の輪郭はとうの昔にぼやけてしまったかもしれませんが、家族、土地、時間と絡み合った感情は、残るものと消えゆくものの間にあり、再び目にされ、戻って来ることを今も静かに待っています。